「動くな……動くなよ……!」私はその時、一羽のオオスカシバに声をかけていました。オオスカシバというのは、蛾の仲間の、蜂に似た昆虫です。パッと見るとスズメバチにしか見えませんが、実は蛾の仲間という変わった虫です。

翅は鱗粉が飛び散ってしまい無色透明で、向こう側が透けて見えるため“透かし羽”から“スカシバ”といいます。そして、似ている種類の昆虫は居ないのだけれど“大きい”から“オオ”という接頭語が付いて“オオスカシバ”という名前になったやはり変わった虫です。

私はピントがあった一瞬の隙を突いて、ひたすらカメラのシャッターを切り続けます。オオスカシバはキバナコスモスやランタナの花の蜜を吸いに良く現れるのですがちょこまかと動いて一箇所に落ち着いていません。だから、写真に撮ろうと思うとどうしても“下手な鉄砲数打ちゃ当たる”方式に成らざるを得ないのです。

この日は、ある写真コンテストに応募する写真を撮っていました。そのコンテストは、新宿の福祉施設の主宰で障害者なら誰でも応募できるそうで、当時私がお世話になっていた施設の職員さんがパンフレットを持ってきてくれました。その時私はどんな写真を応募するか決めあぐねていました。

一応私としては、いくつか候補がありました。一つは近くの公園の池のアオサギがスズメを捕食したシーン、一つは別の公園でカワセミがモツゴを捕食しているシーン。そしてもう一つがオオスカシバが吸蜜しているシーンで、前二者は既に撮影済、後者が今撮っている写真です。

「アオサギがスズメを捕食している写真はインパクトは強いのだけれど、生々し過ぎるしなあ。」と思いながら今撮った写真を確認していました。しかし、ピントが合っていなかったり手ブレ写真だったりで、中々思ったように撮れません。

脳梗塞の後遺症で左半身不随なのでカメラを右手だけで操作することになり、100mmのマクロレンズでは中々上手く撮れないからです。前二者は三脚を使って撮ったのですが、ちょこまか動き回る被写体をアップで撮ろうと思うとそうもいきません。

お昼過ぎから4時間ほど粘って、300枚くらいオオスカシバを撮り、シャッター自体は1000回以上は切ったでしょうか。このあと施設に戻って晩御飯を食べたら写真コンテストに応募する写真を選ばなければなりません。

フィルムのカメラの頃は「撮って、すぐ確認、失敗したら削除」なんてことは出来なかったのですが、デジカメになってからはそれが出来るので、写真を撮るのがある意味で雑になったような気がします。

夕食後、いろいろ迷って、オオスカシバの吸蜜しているシーンをえらびました。撮る時には障害があると、身体的に撮影しづらい事もありますが、撮ってしまえば健常者が撮ろうが、障害者が撮ろうが一緒と思います。